都心部再生のためのシナリオ VOL.3![]() 建築家・常葉学園短期大学講師 栗田 仁 |
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中央駅から3系統の路面電車と自動車が共存するエトリンガー通りを王宮市立公園を左に見ながら北上すると、マルクト広場のところでエトリンガーと直行するカイザー通りに出ます。 東西に走るこの通りは、長さ約1キロにわたってトランジット・モールとなり、このゾーンに乗り入れているSバーン(郊外電車)も含め、実に最大8系統がこの通りを経由しています。そのため時間帯によっては、LRTとSバーンの電車が続けざまにやってくることになります。 人口わずか27万人の街で、LRT5系統、Sバーンが7系統。これに各路線のいくつかの電停と連携するバス路線。郊外の路線は「P+R」の駅が並び、自家用車とのリンクも配慮されています。 街の中心部は人々が群れ、しかし車は通りませんから、活気はありながらも車の騒音と排気ガスと無縁の不思議に気持ちいい場所になっています。 |
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この街を8回も訪れたゲーテはここでマリアンネ・V・ヴィレマーという美女と恋に落ちたとか、シューマンが勉強していたハイデルベルク大学、ブラームスがよく休暇を過ごした街はずれとか、ショパンが演奏旅行中、指のけがを治療してもらった医者の館等々、由緒ある地です。 しかしながら、滞在日数に限りあるLRTウォッチャーは、これらをはじめとする名所旧跡のある”ビスマルク広場以東”の地域に足を踏み入れることなく(LRT路線が行ってないから)、「路面電車全路線走破」めざして1区間(都市の中心部)の1日券(この街でも約600円強でした)を手に車上の人になりましたが、いつのまにか1区の範囲を逸脱、ラベンダーの駅で降りて、焦って戻ってきたりしました。 LRTの路線1と3は、ハイデルベルクの歴史的街区の入り口であるビスマルク広場でクランク状に曲がって進みます。その「逆S字」型の路線パターンがサマになっています。全低床LRTが着く安全地帯の反対側がバス停というつくりで、とても便利な「交通結節点」となっています。 |
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この街もカールスルーエと同じ様な中心街のトランジット・モールができています。そしてこれまたカールスルーエと同じ様に、Sバーンが市街地に乗り入れてLRTに変身するという走り方をしています。すなわち、ハイデルベルクの市街地から郊外へ出ると、時速70キロほどで近郊郊外電車(Sバーン)として中速で走り、マンハイム市街地に入ると再びゆっくり走るのです。 マンハイム市は人口31万人。17〜18世紀に発展した街です。トランジット・モールの南の端にある通称「シュロス(宮殿)」と呼ばれる大規模なバロック建築=選帝侯宮殿が、かなり見応えのあるランドマークになっています。 |
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アール・ヌーボー期の代表的な建築家のひとり、ヨーゼフ・M・オルブリヒ作の結婚記念碑(ルードウィッヒ大公の結婚記念のモニュメント)、そして同じ作者の芸術村コロニー美術館ほか上品な公園になっています。 この街の市街地の中心にあるルイーゼン広場は、あの故ダイアナ元妃が最後の食事をしたホテル・リッツがあるパリのヴァンドーム広場に良く似たスケールと雰囲気をもっています。 違うのはここは完全なトランジット・モールゾーンで、自動車交通はこの広場の西で地下に潜り、地上レベルはLRTと自転車と歩行者のものになっています。この広場には、他系統のLRTが乗り入れ、ひっきりなしに滑らかに電車が滑り込んできます。 ときどき、ガタンゴトンという音がするのは、新型電車が旧型電車を牽引する形で走るケースで、見た目にひどくミスマッチですが、これはこれで愛嬌のある風景です。 |
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さすがに金融のセンターだけあって、中心部には銀行の高層ビルが目立ち「マインハッタン」の異名をとるのがわかる気がします。 DB(ドイツ国鉄)の駅のうちでも間違いなく5本の指に入る華麗で壮大なスケールの中央駅(Hbf)の駅前広場には合計12系統の路面電車が乗り入れており、ひっきりなしに新旧取り混ぜ、各種の電車が滑り込んできます。 この街のLRTの最新のものはブルーに塗装された角型デザインの全低床タイプ。実に静かに滑らかに、しかもダッシュ良く走ります。 ウィーンの、ポルシェ・デザインの最新型LRTは「ウルフ」と呼ばれていますが、フランクフルトのこの最新型には「ブルー・フォックス」とでも呼びたい雰囲気があります。 時差ボケで妙に早く目が醒め、豊かな緑陰をつくる大型の街路樹のある道で早朝ジョギングを試み、現地人を気取ります。早朝の硬い空気の中、朝靄の中を近づいてくるLRTは昼間見るよりもさらに美しく、急遽ジョギング中止して宿にカメラを取りに戻りました。 |
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そんな街のLRTは、駅前に乗り入れる4系統の路線で構成されています。北東の方角に走る路線と、南西に走る路線に搭乗しました。運転席(コックピット!?)の後ろに張り付いて夢中で写真を撮っていたところ「そんなところでやってないで、中に入ったらいかがですか?」と運転手から(私は心得のないドイツ語で)にこやかに話しかけられたのですが、多分そんな内容だったと思います。雨に濡れた石畳が光り、風景にさらに深みを与えていました。 |