都心部再生のためのシナリオ VOL.4

建築家・常葉学園短期大学講師 栗田 仁


 駐車場の待ち行列で、もともとそんなに広くない道路が実質一車線失われ、側を通るほかの車には迷惑、乗っている人はイライラ、排気ガスで中心街の空気は汚れ、一つも良いことはない。しかしながら『駐車場が足りないのなら、もっと増やさなくては』と考えるとしたら、これからは「環境犯罪」です。
 都心の駐車待ち渋滞を解決するのに、駐車場の増設は、より多くの車を呼び込むだけで根本的な解決になった例はありません。もし、2000ccの車だとすると、水平投影面積は四畳半以上になります。一人あるいは二人乗車で、大勢の人が集まる都心部に、これからも移動のためにそのような空間を占用することが許されるかどうか?
 ガソリンエンジンとバッテリーの供用車にして、排気ガスが減っても、都心部に車が増えたら問題の解決にはなりません。ニッケル水素バッテリーの製造から廃棄に至る過程も地球の環境に優しいかどうか?
 世界の趨勢は、中心街に車で人々を集めることに関しては、はっきり「NO!」であり、着々と<都心部の脱クルマ社会化>が進められています。
<写真>「P+R(パーク&ライド)」駅。ここは駐車場のみだがショッピングセンター前の駅が「P+R」駅となることも。


 ドイツは世界的な自動車産業を誇る国です。そのドイツでも、世界共通で、かつては中心街の交通渋滞、都心部の商業集積の沈滞化に苦しんでいました。しかし目下はそれは過去の話。彼らはクルマ社会の「住み分け」という仕組みのデザインに成功しています。
 世界中の高速道路のお手本になった「アウトバ―ン」で知られる国です。郊外の自由な移動はクルマ。都心部へ向かうのは高性能低床式路面電車(LRT)という使い分けが実行されています。郊外や半郊外に駐車場のある駅、そこが「P+R(パーク&ライド)」の駅で、低料金で車を駐めて都心に通勤や買い物などに出掛けます。電車の料金設定も利用のしやすさを第一義に、一日乗り放題で約600円、一ヵ月定期で約4,500円という超格安。
 都心部の空気はきれい、音は静か、運転間隔は短く便利、移動に時間がかからないのも魅力です。フランスでも増えています。「東のパリ」ストラスブールはじめLRTを導入した自治体がそれそれ華麗な展開をみせています。
<写真>中心街のトランジットモール(車乗り入れ原則禁止)。郊外では時速70キロで走るLRT(高性能低床式路面電車)も、商店街では自転車のスピード。