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納税のしがいある充実度
バンクーバー、人口44万人、背後に山を背負い、美しい海に面する長い海岸線をもっている。その街の市立図書館は街の中心部にある。「コロッセオ」の愛称で呼ばれる建物はアラブ系カナダ人建築家モシェ・サフディの設計で、街の中で傑出したランドマークとなって、市民の「街自慢」の一つ。
愛称の由来であるだ円形平面で9階建ての本体と、それよりひと回り大きいだ円弧との間にガラス屋根をかけ、地下1階から6階までが吹き抜けとなって光が豊かに降り注ぐ巨大アトリウムを構成している。アトリウムに面する部分は総ガラス張り。7層の各フロアの窓際で調べものをしている人々が、ショーウィンドーに並べられた美しい商品群のように見える。
アトリウムの1階はロビーと小粋(こいき)なカフェテラスとなり、勉強や調べものの合間の憩いのひとときを一人で静かに、または仲間と和やかに語らいかつ軽く食事もできる。
パリの街の歩道沿いのオープンカフェのように、見る見られるの都会的視線の交錯が適度な緊張感を伴ってわくわくさせる要素もある。
5年前の完成。工費は邦貨換算で約80億円、延べ床面積3万3千u強、席数1千2百、1日平均貸出数約6千7百冊、レファレンス回答約2千4百件。
毎日多くの市民に利用され(昼間は学生、主婦、高齢者、仕事で調べものをするビジネスマン。アフターファイブも月〜木曜の4日間は夜8時まで開いているので勤め帰りにも十分ゆっくりできる)、さらに観光客の訪問も少なくない。
本館の建物が素晴らしいのみならず、分館のネットワークも充実している。会館時間にもご注目いただきたい。
北地区に合計4館。会館時間はF分館ほか1館は火・水曜が12時〜21時、木・金・土曜が10時〜18時、日・月曜休み。K分館は火・木曜が10時〜21時、水・金曜が10時〜18時、日・月曜休み。
南地区には合計5館、東地区には7館、西地区には4館で市内の分館の合計は20館、おおむね人口2万人に一つの割で分館が整備されている。いずれも週2日は夜9時まで開き、週に1〜2日休館する。
注目すべきはゴージャスな中央館と、分館の設置密度だけではない。提供されるサービスの内容も多岐にわたる。幼児、児童の年齢階層別の読み聞かせプログラム、作家が自作を語る講演会、インターネットによる検索講座と多彩に展開されている。求人・求職情報を提供するコーナー、LL教室、国内・アメリカ・その他海外の新聞を集めたニュースペーパー・ギャラリー…。うらやましくなるような充実ぶりである。
現地に住む知人は「これだけのサービスを提供されたら、税金の払いがいがある」と語った。いま、われわれの周囲で、こんな実感を体験できることがあるだろうか?
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