中小企業のWeb担当者で「デジタルマーケティングを始めたいが、導入できない……」「社内で理解を得られない……」という方は多くいらっしゃいます。
実は、中小企業は大手企業よりもデジタルマーケティングを導入しやすい環境にあります。なぜなら、デジタルマーケティングを導入するには「他部門との連携」が欠かせませんが、中小企業は大企業に比べ、他部門との垣根が比較的低く連携をとりやすいため、導入・実装しやすいのです。
ここでは、本来であれば導入・実装しやすいはずのデジタルマーケティングが「なぜ中小企業に浸透していないのか?」といった中小企業の課題にフォーカスしていきます。読み終えていただければ、中小企業のデジタルマーケティングの課題とその解決策が明確になり、具体的なアクションプランを立てられるようになります。
では、さっそく解説していきます!
1. 中小企業のデジタルマーケティングの実態
まずはじめに、中小企業のIT化の現状を見ていきます。
中小企業庁が平成30年に発表した資料「最近の中小企業・小規模事業者政策について」によると、中小企業のIT化の現状について次のように報告されています。
【IT化の現状】 |
---|
・IT投資を積極的に行う中小企業の方が、売上高・売上高経常利益率の水準が高い。 ・中小企業においては、ITを活用した効率化が遅れている状況であり、チエ、ヒト、モノ、カネの不足が課題。 |
https://www.chusho.meti.go.jp/soshiki/180404seisaku.pdf
下記は同資料に掲載されている中小企業の「IT化の現状」のグラフです。

【IT化の現状 〜業種別に見たIT投資と業務実績の関係〜】
https://www.chusho.meti.go.jp/soshiki/180404seisaku.pdf
このように、売上高・売上高経常利益率にはっきりと差が出ているのにもかかわらず、IT投資をしていない企業は、なぜIT化を積極的に行わないのでしょうか?
下記は同資料に掲載されている中小企業の「IT投資を行わない理由」のグラフです。

【IT投資を行わない理由】
https://www.chusho.meti.go.jp/soshiki/180404seisaku.pdf
「ITを導入できる人材がいない(43.3%)」「導入効果が分からない、評価できない(39.8%)」が高い割合を占め、次に「コストが負担できない(26.3%)」が続きます。
この上位3つは、中小企業様のコンサルティングをしていると必ずと言ってもよいほど耳にする、切実なお悩みです。特に人材不足は深刻で、ITに明るい人材、つまりデジタルマーケティングを担える人材がいないという現実に直面している企業が多いです。
2. 中小企業のデジタルマーケティングの課題と解決策
前項で見てきた資料と、その他民間企業のデータなどから、中小企業のデジタルマーケティングの主となる課題をまとめてみました。
【中小企業のデジタルマーケティングの課題】
・人材不足
・やり方(何から始めればいいか)が不明
・予算不足
・経営層の理解が得られない
・Webサイトの活用を主としているが効果を実感できない
上記以外にも企業によっては他にも課題があるのですが、ここでは主となる課題にフォーカスし、考えられる解決策の中から、比較的実行しやすい策を解説していきます。
- 「人材不足」「やり方が不明」の解決策
まず、「人材不足」「やり方が不明」の解決策としては、人材育成とアウトソーシングが最も現実的です。ITやデジタルマーケティングを導入できる人材を新規雇用するとなると、人件費がかかりすぎるため、実施するのは難しいといえます。よって、今社内にいる人材を育成するのが現実的です。
また、アウトソーシング(外部委託)も合理的な解決策のひとつです。実際に、ITやマーケティングをアウトソーシングすることで増益したデータもあります。
前項で引用した、中小企業庁が発表した資料「最近の中小企業・小規模事業者政策について」によると、中小企業の人材不足の克服に向けた課題について次のように報告されています。
【人材不足の克服に向けた課題】
- 多様な人材を活用できている企業は、中小企業ならではの柔軟性を活かした職場環境改善や生産性向上にもつながる業務の合理化・標準化にも取り組んでいる。
- 人材不足でも業績を伸ばす企業は省力化、IT導入、アウトソーシング等に取り組んでおり、デザイン・マーケティングなど高度な人材が求められる業務でも、アウトソーシングのニーズが増大。
下記は同資料に掲載されているグラフです。

【経常利益の実績別に見た、人材不足企業の取組(非製造業)】
https://www.chusho.meti.go.jp/soshiki/180404seisaku.pdf
特に「バックオフィスへのIT導入」が、人材不足でも増益を実現している割合が高いことがわかります。

【事業の方針別に見た、外部委託の必要性が増加した業務】
https://www.chusho.meti.go.jp/soshiki/180404seisaku.pdf
このデータからは、外部委託をすることで特に「デザイン・商品企画」「調査・マーケティング」が成長・拡大志向にある割合が高いことがわかります。
アウトソーシング・外部委託は余計な経費がかかるように思われがちですが、データからも分かるように、実際には増益や成長・拡大志向の割合が多いため、有効な解決策といえるでしょう。
- 「予算不足」「経営層の理解が得られない」の解決策
次に、「予算不足」「経営層の理解が得られない」についてです。
IT化やデジタルマーケティングの推進には、経営層の理解が不可欠です。
経営層の理解が得られると、予算の確保も実現できるため、まずは経営者・経営層がデジタルマーケティングやIT化の重要性を認知することが大事になってきます。
中小企業であれば経営層との距離も近く、相談やミーティングの機会も設けられるかと思います。
経営者・経営層、あるいは上司にデジタルマーケティングの重要性を認知
してもらうためには、実際のデータを提示するところから始めるのがベターです。たとえば、本記事で紹介してきた公的なデータや、他の民間企業の調査・統計データ、そして自社のデータなど。
デジタルマーケティングは、中長期的に継続していくものなので、ある程度予算も必要になります。
- 「Webサイトの活用効果を実感できない」の解決策
民間企業の調査データによると、中小企業のデジタルマーケティングでは「Webサイトの活用」割合が高いという結果が得られていますが、それにも関わらず「Webサイトの活用効果を実感できない」という割合が高くなっています。
【取り組んでいるマーケティング施策】

「HP活用」が重要なマーケティング施策になっている。
【マーケティング施策の満足度】

※図1、図2
出典元:株式会社リコー【中小企業のデジタルマーケティング実態調査結果】再編加工
つまり、主な施策であるWebサイトをうまく運用できていないために、効果を実感できていないといえます。Webサイトは開設したものの、特に手も加えず、そのままになってしまっているケースは非常に多いです。
特にBtoBのデジタルマーケティングにおいては、Webサイト運用は重要な施策のひとつですので、1度見直しをすることをおすすめします。
また、BtoCのデジタルマーケティングにおいては、Webサイトをスマホ対応(レスポンシブ)デザインにすることは必須です。自社サイトの見直しをする際には、まず、企業における「Webサイトの目的」「Webサイトの役割」を明確にするところから行います。
Webサイトのリニューアルについて、くわしく知りたい方は下記の記事を参考にしてみてください。
3. 中小企業のデジタルマーケティングの必要性
この項では、中小企業のデジタルマーケティングの必要性について「BtoB」「BtoC」それぞれに説明していきます。
BtoB中小企業のデジタルマーケティング
BtoB(B2B)の中小企業はデジタルマーケティングを導入することで「経費削減」「人材不足の解消」「効率化」を実現できるため、必要性が非常に高いといえます。
ここでは、BtoB企業のデジタルマーケティングで近年注目を集めている手法の中から、特に必要性が高いとされている「マーケティングオートメーション(MA)」「動画コンテンツ」をピックアップします。
マーケティングオートメーション(MA)
マーケティングオートメーション(Marketing Automation)とは、マーケティング業務を自動化することです。ここでのマーケティング業務(自動化する業務)とは、数多くありますが、たとえば、リードの獲得・スコアリング・育成や、メルマガ配信、行動分析などがあります。
従来はアナログで人が行っていた営業活動や単純作業、人手や時間が必要な膨大な処置作業などを、マーケティングオートメーションツールを用いることで自動化できるため、大幅な効率化と人材不足の解消を実現できます。
中小企業がMAを導入する際のポイントとしては、ごく一部の業務を自動化させるところからスタートすることです。最初から、一度にすべてを自動化させるより、優先順位の高いところから小さくはじめると良いでしょう。
マーケティングオートメーション(MA)について、くわしくは下記の記事で解説しています。
動画コンテンツ(YouTube)
BtoB企業の商品やサービスは、たとえば機器であれば、使用方法が難解であったり、サービスであれば複雑で解りにくかったりというケースが少なくありません。動画コンテンツは、そういった商品やサービスの解説に有効に作用するため、動画マーケティングはBtoBに向いています。
国内外ともに動画コンテンツを利用したデジタルマーケティングで成功した企業の事例が数多く報告されています。企画の切り口次第では強いインパクトをユーザーに与えることも可能です。
また、新規顧客から寄せられるよくある質問(たとえば機器のメンテナンス方法など)を動画で解説することで、多くの見込み顧客の不安や疑問を解決できますし、難しいことをわかりやすく伝えることで、ユーザーの信頼感・安心感も獲得できます。
動画マーケティングについては、以下の記事でご紹介しています。
BtoC中小企業のデジタルマーケティング
BtoC(B2C)の中小企業はデジタルマーケティングを導入することで、特に「集客」「新規顧客の獲得」を実現できる傾向にあります。
ここでは、BtoC企業のデジタルマーケティングで結果を出しやすい「リスティング広告」「SNS広告」と、近年注目を集めている手法の中から、「Web接客」をピックアップし解説します。
リスティング広告
「Web広告は種類が多くてどれから始めたよいか分からない……」という方は多くいらっしゃいます。
結論から言いますと、リスティング広告、あるいはアフィリエイト広告から始めるべきです。その理由は明確で、広告を出す際には、ニーズが顕在化した顧客をつかむ広告を優先すべきだからです。
ニーズが顕在化した顧客とは、つまり購入に1番近いところにいる購入直前の顧客です。このような購入直前の顧客に接触できる広告が、リスティング広告とアフィリエイト広告です。
特にリスティング広告は、中長期的な施策に比べ即効性があり、結果が早く得られるため、PDCAサイクルを回しやすい施策です。初心者でも低予算から試すことができるという利点もあります。
リスティング広告の基礎知識や、メリット・デメリットについては下記の記事が参考になります。
「購入直前」の顧客にアプローチする以外にも、商品やサービスをまだ知らない顧客(潜在顧客)には、まずは商品やサービスを認知される必要があります。潜在顧客へは、SNS広告やディスプレイネットワーク広告で認知をうながします。
SNS広告/SNSマーケティング
ターゲット層によっては、FacebookやインスタグラムにWeb広告を掲載することが非常に有効です。
主に若年層の女性をターゲットにした、カラフルな写真が映える商品や、そういった商品を利用したサービスに適しています。キャッチーな写真で、興味を惹き付けてWebサイトやECサイトに誘導します。
ここでの注意点は、誘導先のWebサイトやECサイトのクオリティです。Facebookやインスタグラムで、あなたの企業の広告をクリックしたユーザーは、興味と期待を持った状態で、誘導先のWebサイトやECサイトに訪れます。
よって、誘導先のWebサイトやECサイトは、訪れたユーザーの興味と期待を裏切らないクオリティ(デザインや写真のクオリティ、UX・UI)をキープしておくことが重要です。
Web接客
Web接客は、ユーザーの満足度が高い傾向にあり、近年注目が高まっている手法ですが、残念ながらWeb接客ツールを導入している企業はまだ少ないのが現状です。
Web接客は、顧客満足度も高めつつ、人材不足も解消できる優れた手法です。敷居の低い様々なツールが出てきているので、1度導入してみてはいかがでしょうか。
4. 中小企業のデジタルマーケティングは何から手をつけるべきか?
中小企業のデジタルマーケティングは何から手をつけるべきなのでしょうか?
結論から言うと、何から始めれば良いかは、企業によって異なります。
たとえば、Webサイトの運用が上手くいっていない企業は、Webサイト運用の見直しから始めるべきですし、すでにWebサイトの運用が成功している企業は、そのデータを利用して他の施策も実施します。
こういったそれぞれの企業にあったデジタルマーケティングを進めつつ、どの企業も必ず手をつけるべき作業が2つあります。
① アナログのデータのデジタル化
1つめは、アナログのデータをデジタル化することです。
顧客情報や商品データ、展示会での顧客リスト、過去に営業をした企業のリストなど、会社にはさまざまなデータが部署ごとに膨大に蓄積されているはずです。
部署ごとにバラバラになっているこういったアナログの情報は、デジタル化することで、将来的に先述したマーケティングオートメーションにも活用できる貴重なデータとなります。
このような作業は地道にコツコツと進めていくしかありませんので、日々の業務を進めつつ時間を見つけてデータのデジタル化を進めていきましょう。
② 全社的にデータを共有する
アナログのデータをデジタル化したら、次は「全社的にデータを共有」していきます。部署間の垣根を越えて、データを見える化することがデジタルマーケティングには必要です。
たとえば、営業部門とマーケティング部門のデータを相互で利用することで、細かいターゲティングが実現できたり、新規プロジェクトを展開する際に共通認識を持つことができたりと様々な利点があります。
中小企業のデジタルマーケティングは将来的に企業のデジタル化にも関わってくるため、長い目でみると全社的に共通認識を持って取り組んでいくことになります。そして、その取り組みが中小企業のデジタルマーケティングを成功させる鍵になります。
上記で紹介した2つ「① アナログのデータをデジタル化」「② 全社的にデータを共有する」を効率的に実施するためには、デジタルマーケティングツールの導入をおすすめします。デジタルマーケティングツールは、デジタルマーケティングを効率的に進められるデジタルツールです。
具体的なツールを下記の記事【基礎ツール】の章で紹介しています。
5. 中小企業のデジタルマーケティング(IT・IoT)の導入事例
ここでは、中小企業のIoT・AR活用事例を紹介していきます。IoTやARと聞くと、現実からは遠い未来のテクノロジーのように感じる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、3年後はこれらの技術はもっと身近なものになっているはずです。知っておくことで描ける企業ビジョンも大きく変わってきますので、少し紹介しておきます。
① IoT導入
【株式会社ペットボードヘルスケア】
IoTデバイスのカメラ付き自動給餌器、アプリの開発で生産性向上を目指す
株式会社ペットボードヘルスケアは、ペットの健康寿命を延ばすことを目的としたサービスを行うペットヘルスケアの会社です。ペット×ITという事業を展開しています。
ペットの健康改善を目指し、カメラ付き自動給餌器「スマートごはんサーバー」を開発。このIoTデバイスはスマホと連動させ自動でペットに食事を与えることができます。また、給餌器のカメラでペットの様子を見守ることも可能です。ペットの食事、カロリーデータから、健康状態のスコアリングを目指して、ペットライフデータベースの利活用の研究開発を実施しています。
② AR導入
【株式会社シンカ・コミュニケーションズ】
印刷会社によるAR活用のコンテンツで観光促進事業を後押し
株式会社シンカ・コミュニケーションズは、カタログ、チラシからスマートフォンアプリ製作などを手掛ける広告デザイン兼印刷会社です。
「コンテンツ×ものづくり」というコンセプトを追求し、観光をPRする広告媒体として、冊子とスマホアプリをセットにした「観光クロスメディアパッケージ」という新商品を開発。
話題のAR※を活用し、観光用パンフレットに印刷した写真・イラストを専用カメラアプリで撮影すると、 動画が再生されるといった魅力あるコンテンツです。 冊子でありながら動画再生や360度のパノラマ画像の表示などで、観光名所やホテル館内などを見ることができ、付加価値の高いコンテンツを提供しています。
※ AR・・・現実世界の空間や物に、CGや動画などバーチャルにつくられたものをスマートフォン等を使用して映し出し、情報に新たな付加価値を与える技術。
6. まとめ
最後に、中小企業のデジタルマーケティングの課題とその解決策をまとめます。
【中小企業のデジタルマーケティングの課題】
- 人材不足
- やり方(何から始めればいいか)が不明
- 予算不足
- 経営層の理解が得られない
- Webサイトの活用を主としているが効果を実感できない
【課題の解決策】
- 「人材不足」「やり方が不明」の解決策
-人材育成とアウトソーシングが最も現実的 - 「予算不足」「経営層の理解が得られない」の解決策
-経営者・経営層にデジタルマーケティングやIT化の重要性を認知してもら
-データや実例を提示する - 「Webサイトの活用効果を実感できない」の解決策
-効果を実感できないのはうまく運用できていないから
-Webサイトの見直しをすることがおすすめ
-見直す際には、Webサイトの目的や役割をはっきりさせる
デジタルマーケティングの課題と解決策は理解したものの、企業によっては具体的に何から手を付けるべきかわからないという方も多いと思います。
「自社のデジタルマーケティングの課題を客観的な視点から把握したい」「自社に合った正しい戦略を知りたい」といったお悩みを抱えている場合には、ぜひ弊社までご相談ください。