年末を迎え、仕事の区切りや環境を整えるこの時期。非常時に業務を止めないための備えについても、考えておきたいタイミングです。今回は、最近開催された「IT経営フォーラム」と「藤枝未来DXスクール」から、災害時のIT活用と企業の事業継続(BCP)をテーマにした講座をご紹介します。災害が発生したとき、ITを活用するために注意すべき点は―そして、平時から社内をDX化しておくことが、復旧の速さや事業継続にどう影響するのか―。
両講座では、災害時に企業が従業員の安全を守るだけでなく、顧客や地域を支え続ける存在であるために、何を備えておくべきかという視点が語られました。事業者の皆様、地域で働く皆様と一緒に考えたい内容が詰まっています。
そのシステム、災害時に使えますか?
まず紹介するのは、11月に焼津市内で行われたIT経営フォーラムの特別講演。公益財団法人ほくりくみらい基金理事の野水克也氏による「被災者、そして支援者として気付いた 能登半島地震 できたDX、できなかったDX」です。
野水氏は能登半島地震後、ほくりくみらい基金の活動に加え、IT企業の災害支援チームのメンバーとして、官民双方の支援に携わってきました。講演では、高齢化が進む地域での災害の特徴や、個人が日頃から備えておくべきことなどをお話されたほか、自身が開発・構築に関わった災害支援システムについても語られました。
備蓄品の在庫状況や、各地から届く支援物資の振り分け方、ボランティア団体の受け入れ調整、医療チームへの情報共有など、災害対応の現場ではこうした業務を円滑に進めるために、ITの力が強く求められます。能登半島地震のように、高齢者が多い地域では、復旧に携わる人手も足りず、いかに効率的に作業するかが復旧のスピードを左右します。
しかし、野水氏によると、現実では多くの既存システムが災害時に機能しなかったといいます。理由はシステムの性能そのものではなく、以下のような「使うための前提」が、非常時には大きな壁になってしまったことでした。
- パソコンでなければ使えない
- 特定の担当者がいないと操作できない
- 初めて使う人がログインできずシステムに入れない
正月休みに起きた地震のため、システムを使える人は職場にいません。被害が広範囲に及び、担当者自身も被災して出社できない状況が各地で起きていました。重要なのは、特定の人がいなくても使える、そして、その場で立ち上げられる仕組みです。
- 備蓄品の在庫情報を平時からWeb上で共有・公開しておく
- スマートフォンからも操作できるシステムにしておく
- 災害時には即座にアクセス権限を切り替えられるようにしておく
といった工夫が、非常時の混乱を大きく減らすことにつながります。
この話は、災害支援に限ったことではありません。担当者が不在になると業務が止まってしまう――そんな経験は、心当たりがあるのではないでしょうか。特定の業務が滞ることで、復旧や事業継続に時間がかかってしまう可能性があります。平時から業務を属人化させない体制づくりや、資料をクラウドで共有し複数人が管理できる仕組みを整えておくことが、いざというときに事業を止めないための備えとなります。
DX×BCP 経営課題として全社的な取り組みを
では、こうした備えを企業全体で進めるには、どのような視点が必要なのでしょうか。そのヒントとなるのが、藤枝未来DXスクールでの講座です。藤枝未来DXスクールは、地域企業のDX推進の一環で始まった藤枝市の事業で、10月から経営、マーケティング、総務など、各分野による講座が開かれてきました。12月には最終回が行われ、株式会社アドテクニカの後藤大輔氏がBCPをテーマに語りました。
BCP(Business Continuity Plan)とは、災害や感染症、突発的な経営環境の変化が起きても、重要な事業を中断させない、または早期に復旧させるための計画です。
一見すると、DXとBCPは別物に感じるかもしれません。しかし、社内の仕組みを普段からDX化しておくことで、緊急時の情報共有がスムーズになる、出社できなくてもリモートで業務が継続できる、少人数でも初動対応が可能になるといった効果が期待できます。
テレワーク環境の整備、オンライン会議の活用、書類や帳簿の電子化、安否確認を含む情報共有の仕組みづくり。これらは平時の業務効率化であると同時に、災害時の備えでもあります。
不測の事態への備えは、成果が見えにくく、後回しにされがちな経営課題かもしれません。しかし、従業員とその家族を守り、顧客からの信頼を守るためには、経営層を含めた全社的な取り組みが欠かせません。
事業継続は、従業員・お客様・地域を支える!
災害時に企業が事業を継続できるかどうかは、従業員やその家族の生活を守るだけでなく、雇用を守り、人口を地域につなぎとめることにつながります。今回紹介した講演や講座は、どんな組織にも共通する備えのヒントを与えてくれました。
能登半島地震からまもなく2年。仕事納めや年末の大掃除の機会に、備蓄品や防災マニュアルを見直すと同時に、「この業務は担当者がいなくても回るか」「このシステムは災害時にも使えるか」、そんな視点で、点検してみてはいかがでしょうか。
サンロフト社員の声

総務人事部 川田昌宏
サンロフトでもBCP策定のために動き始めました。まずは「できるところから始める」ことを大切にしています。最近では Microsoft 365を活用して、備蓄品管理アプリを社内向けに試験運用しています。紙やExcelよりも更新がスムーズで、災害時の情報を一元管理できる仕組みとして期待しています。また、9月の竜巻発生時には、普段社員が使う日報管理システム「nanoty」のコミュニティ機能で社員の安否や状況を共有しました。災害という非日常の場面でも、日頃使っているツールがそのまま役に立つことを強く実感しました。こうした日常的な取り組みを踏まえ、BCPの初めの一歩と言われる「事業継続力強化計画」を進めていく事になりました。中小企業ではBCPや事業継続力強化計画の取得率が2割に満たないと言われていますが、急に完璧な体制を整えることは難しくても少しずつ改善を積み重ねていくことが、結果的に企業の「続ける力」を高めることにつながると考えています。
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